QoSとは何か
QoS(Quality of Service)とは、ネットワーク上でやり取りされる通信の品質を一定レベルで保証する仕組みのことです。具体的には「どの通信を優先して流すか」「どのくらいの帯域を確保するか」といった調整をネットワーク機器が行うことで、必要なアプリケーションに安定した通信を提供します。
例えば、家の中で同時に電気を使うとブレーカーが落ちることがありますが、QoSはその状況で「冷蔵庫の電源だけは最優先で確保する」といった管理をしているイメージに近いです。
QoSを使わない場合の問題点
QoSを適用していないと、すべての通信が同じ優先度で送られるため、トラフィックが混雑すると重要な通信が影響を受けます。特に音声通話やビデオ会議といったリアルタイム通信では、少しの遅延やパケットの欠落でも品質が大きく低下します。
典型的な例は、ファイル転送(FTP)と音声通話が同じネットワークを使っているケースです。ファイル転送は大量の帯域を使い、さらに短時間に集中する性質(バースト性)があります。もし優先度を決めずに流すと、音声通話が途切れたり遅延したりする可能性が高くなります。
特にWAN(広域ネットワーク)のように帯域が限られる部分では、この問題が顕著に現れます。
FTPトラフィックと音声トラフィックの違い
| トラフィックの種類 | 特性 |
|---|---|
| FTPトラフィック | ・大量の帯域を必要とする・短時間に集中して流れる(バースト性)・TCPにより再送制御されるため、リアルタイム性は不要 |
| 音声トラフィック | ・使用する帯域は少なく一定・1通話あたり、G.729で約40kbps、G.711で約100kbps・UDPで送信され、再送がないため遅延や欠落に非常に敏感 |
QoSを適用した場合の効果
QoSを導入すると、ネットワーク機器が音声トラフィックを優先的に処理するため、ファイル転送などの影響を受けにくくなります。具体的には以下のように分けて処理します。
- 音声データ(RTP)は最優先で送信
- 音声の制御信号(SIP)は必要な帯域を確保
- その他のトラフィックは残りの帯域を使用
この仕組みにより、同じ帯域を共有していても通話品質を守ることが可能になります。
また、音声通信には推奨される品質基準があります。
- 遅延(Delay):150ミリ秒以下
- ジッター(Jitter):30ミリ秒以下
- 損失(Packet Loss):1%以下
これらはあくまで目安ですが、試験ではよく問われる数値なので覚えておくと有利です。
QoSのモデル
QoSをネットワークに適用する方法には、大きく分けて3つのモデルがあります。
| QoSモデル | 説明 |
|---|---|
| IntServ(Integrated Services) | アプリケーションごとに帯域を予約する方式。RSVPというプロトコルを利用。全ての通信フローを管理するため、機器への負荷が大きく、大規模ネットワークには不向き。実際の運用ではあまり使われない。 |
| DiffServ(Differentiated Services) | トラフィックを分類し、優先度を付与して処理する方式。分類、マーキング、キューイング、スケジューリングの流れで実装される。現実のネットワークでは最も広く使われており、一般的にQoSといえばこの方式を指す。 |
| ベストエフォート | QoSを設定しない場合のデフォルト動作。パケットを到着順(FIFO)で処理し、優先度は存在しない。つまりQoSなしの状態。 |
IntServとDiffServの違い
両者の違いを整理すると、
- IntServは「予約型」であり、個々の通信フローを細かく管理するため小規模向け
- DiffServは「分類型」であり、トラフィックをまとめて処理するため大規模でも運用可能
この違いが理解できていれば、試験問題で選択肢を見分けやすくなります。
DiffServモデルの処理フローの全体像
DiffServ(Differentiated Services)モデルでは、ネットワーク機器が受け取ったトラフィックを重要度に応じて処理を変える仕組みを持っています。処理の流れは次の4段階で構成されています。
- 分類(Classification)
- マーキング(Marking)
- キューイング(Queuing)
- スケジューリング(Scheduling)
この流れを理解すると、なぜ音声トラフィックが優先されるのかが見えてきます。CCNA試験でも「DiffServの流れは4段階で構成される」という点はよく問われるので、確実に覚えておきましょう。
分類(Classification)
まず、ルータやスイッチは受け取ったパケットがどんな種類の通信なのかを判別します。分類の基準には以下があります。
- IPアドレス(送信元・宛先)
- TCP/UDPポート番号(アプリケーションの種類)
- L2情報(CoS値など)
- L3情報(DSCP値やIP Precedence値)
例えば、宛先ポート番号5060(SIP)であれば音声の制御用トラフィックと分類されます。この「仕分け作業」があることで、後の処理で優先度を振り分けられるようになります。
マーキング(Marking)
分類したパケットに優先度ラベルを付ける工程です。ここで使われる代表的な仕組みがCoS(Class of Service)とDSCP(Differentiated Services Code Point)です。
L2マーキング(CoS)
Ethernetの802.1Qタグに含まれる3ビットの値(0~7)で優先度を表します。スイッチで利用されますが、リンクごとにしか保持されないため、広域にわたる通信では使いにくい面があります。
L3マーキング(IP Precedence / DSCP)
IPv4ヘッダのToSフィールドを利用して優先度を記録します。ルータではこちらを使用します。
- IP Precedence:3ビットを利用し、0~7の範囲で表す
- DSCP:6ビットを利用し、0~63までの範囲で表す
DSCP値とPHB(Per Hop Behavior)
DSCPの値によってネットワーク機器は「このパケットをどう扱うか」を判断します。この動作方針をPHB(Per Hop Behavior)と呼びます。主な分類は以下の通りです。
| PHB | DSCP値(例) | 説明 |
|---|---|---|
| Default | 0 | ベストエフォート。特に優先しない通常データに割り当てられる。 |
| Class Selector (CS) | CS0~CS7(8刻み) | IP Precedenceとの互換性を確保した方式。例:CS5はIP Precedence 5と同じ意味。 |
| Assured Forwarding (AF) | AF11~AF43 | 優先度と破棄レベルを組み合わせて表現。優先度が高く、破棄レベルが低いものほど安定して転送される。 |
| Expedited Forwarding (EF) | 46 | 最優先で転送される。音声トラフィックに標準的に使われる。 |
特にEF=DSCP 46は試験で頻出です。必ず暗記しておきましょう。
キューイング(Queuing)
パケットをそのまま送出せず、一度「キュー」という待機列に格納します。キューは複数あり、トラフィックの種類によってどのキューに入るかが決まります。これにより「優先度の高い通信を先に処理する」ことが可能になります。
スケジューリング(Scheduling)
複数のキューにパケットがたまった場合、どの順番で処理するかを決める仕組みがスケジューリングです。代表的な方式は以下の通りです。
| 方式 | 説明 |
|---|---|
| FIFO(First In First Out) | 到着順に処理。QoSを使わない場合のデフォルト方式。 |
| PQ(Priority Queuing) | 優先度の高いキューを必ず先に処理する方式。 |
| WFQ(Weighted Fair Queuing) | 通信フローごとに公平に処理する方式。 |
| CBWFQ(Class-Based WFQ) | 管理者が定義したクラスごとに帯域を割り当てる方式。 |
| LLQ(Low Latency Queuing) | CBWFQにPQを組み合わせた方式。音声を最優先キューに入れるため、通話品質を守るのに最も使われる。 |
試験では「LLQは音声トラフィックを守るための代表的な方式」という点がよく問われます。
ポリシングとシェーピング
QoSの制御には、キューイングやスケジューリングだけでなく、トラフィック量を制御する方法もあります。
ポリシング(Policing)
設定された速度を超えたトラフィックを破棄する方式。シンプルですが、通話のような通信に適用すると品質低下が発生することがあります。
シェーピング(Shaping)
設定された速度を超えた分をバッファにため、タイミングを見て送信する方式。特にWANルータでよく利用されます。